キモータランド

現実と虚無

頭を抱えて、後悔する運動〜

文:クレイジーピエロ裕文

 

私は現在26歳の社会人だ。

気がつくと"大人"にカテゴライズされる年齢になってしまった。


私の考える"大人"像は、昔から一つの能力があるかだと思っている。

その能力とは「上手に嘘がつけるか」だと思う。


「すみません…風邪気味で…」

「え!先輩の彼女さんめっちゃ可愛いっすね!」

「はい、今週中にはどうにか形になるかと…」

など、ついた嘘は数え切れない。

しかし、どの嘘も「その場をいいカンジに治める」ための必要悪だったと思う。


そんな私には子供の時に「あ、大人に嘘つかれた」と確信した記憶が残っている。

 


小学校1年生の時の話である。

私の通っていた小学校では、夏休みの平日朝6:30に校庭に集まり、みんなでラジオ体操を踊るというサイコ文化があった。


何故かこのサイコ文化はかなりの拘束力があり、夏休みなのに8割以上はちゃんと通っていた。


ピカピカの一年生だった私も、近所の同級生と共にラジオ体操に行き、帰って朝食を食べ、宿題をし、祖父母と散歩し、公園で虫を取り、家族で夕飯を食べて、ドラえもんを見ながら眠りにつく、といった「The ぼくのなつやすみ」のような毎日を過ごしていた。


先述したラジオ体操では、体操後PTAのおばちゃんにラジオ体操カードにハンコを押してもらう習わしがあった。


7/20〜31のラジオ体操をフルコンプすると、PTAのおばちゃんから衝撃の一言を聞いた。


「夏休み、ぜ〜んぶハンコ押せた友達には豪華賞品があるよ〜♪」


今思えば簡単に違うとわかるが、なにせ頭空っぽ夢詰め放題の一年生の私である。


私は本気で

「豪華賞品=ゲームボーイアドバンス

だと理解した。


私はおばちゃんに

「ゲ、ゲームボーイアドバンスがもらえるの!?!?」

と興奮して聞くと


「う〜ん、それくらいいいものだよ〜♪」

との返答が。


私は

「なるほど…今から豪華賞品がゲームボーイアドバンスだとバラすとみんなズルしたり、用意する数がいっぱいになっちゃうから、内緒にしているんだ」

と、ガバガバ推理し1人ウキウキで帰宅した。


そして、来るはずのないゲームボーイアドバンスのために、毎朝6:30のラジオ体操に参加していた。

 

話は変わるが、私の祖母は地元で40年続く駄菓子屋を営んでいる。


駄菓子屋と聞くと、皆様も頭に浮かぶ店が一つはあるだろう。

 

こじんまりとした店内にカラフルな駄菓子が並ぶ…

うまい棒、きな粉飴、ポン菓子、アメリカナイズドされたグミ、粉ジュース、さくら大根、モロッコヨーグル、ブタメン

奥には愛想のいいおばちゃんが座っていて…


まさにそんな思い浮かぶような駄菓子屋が、私の家の隣に店を構えていた。


ある日、そんな祖母からお手伝いを任された。

簡単に言うと、100円分の決まった種類の駄菓子を一つずつビニール袋に詰めてくれ、というものだった。

 

大好きなばあちゃんのためならばと、夏休み中に毎日毎日ラジオ体操に行き、袋詰め作業を手伝い、ラジオ体操に行き、袋詰め作業を手伝い…

 

夏休みの終わり頃には確か2,000袋ほど完成させた。


達成感はなかなかのもので、一年生ながらに「俺、頑張ったな」と思ったものだ。

 


そして迎えた8/31。

なんと私は7/20〜8/31にお盆を除く全てのラジオ体操に参加した。


「ついにゲームボーイアドバンスが…」と、興奮は最高潮で腕を左右に回す運動あたりで多分白目を剥いていた。


そして、ハンコタイムである。

ハンコを押しながら、PTAのおばちゃんがハンコの数を見て、フル参加だった生徒を一列に並ばせた。


私を含めて10人ほどのガキたちがみんなの前に列になる。


ついにきた。


PTAなのかGBAなのかわからなくなってきたおばちゃんが叫ぶ。


「は〜い♪ここにいるお友達は夏休み中に一回も休まず、ラジオ体操に参加してくれました〜拍手〜♪」


名誉などはいい。GBAをよこせ。


「では、豪華賞品の贈呈で〜す♪」

 


渡されたのは、ビニール袋。

中には私が詰めた駄菓子が入っていた。

 


びっくりした。声が出なかった。

私は来る日も来る日も自分が受け取る豪華商品を袋詰めしていたのだ。


しかも

「は〜い♪今日来てくれた全員にあげますよ〜♪」

と、全員に配り始めた。


なんでフル参加メンバーを前に出した?

差別化しないの?


 

これは後から知ったのだが、このラジオ体操文化は市内の小学校で行われていた。

 

そして、市内全ての小学校の「豪華賞品」を私の祖母の駄菓子屋が受注していたのだ。

 

私は同胞のために、来る日も来る日も「豪華賞品」を作り続けていたのだ。

 

駄菓子をつまみながらの帰り道はよく覚えていない。

ただ、

 


「夏休み、ぜ〜んぶハンコ押せた友達には豪華賞品があるよ〜♪」


「あ、大人に嘘つかれた」


と思ったことは覚えている。