キモータランド

現実と虚無

SILENT SIREN

 

文:クレイジー・ピエロ・裕文


友人Aの話をしよう。


Aは天気予報のデフォルメ化された日本地図には載っていない離島出身、いわゆる"島そだち"である。


Aはそんな離島から抜け出すべく、高校時代の青春を捨て受験勉強に没頭し、見事東京の大学に合格した。


祖父母から用意してくれた貯金を渡され、父親から「頑張ってこいよ」と背中を押してもらい、島のみんなの見送りを背に、船で24時間かけて上京した。

 


船の中で母親から渡された手紙には

「寂しくなったらいつでも電話しなね」

と書かれていた。

 

Aは東京で頑張って、東京でたくさん勉強して、就職して親孝行することを決意した。

 


東京につくと、島にはなかった建造物、たくさんの人、そして華やかなネオン街に心が踊った。


そんなAが

「東京、ヤベェ」と思ったエピソードだ。

 

 


Aは大学の入学式後、ガイダンスに参加していた。

大学のスケジュール、科目登録の注意点、そしてキャンパス案内といったプログラムだ。


そのガイダンス中に隣の席のBという男と知り合った。

 

Bは金髪で、東京生まれ東京育ちのシティボーイで、Aの初めての東京友達だった。


四苦八苦しながら買ったばかりのスマホでLINEを交換し、一緒にガイダンスを聞いていた。


休憩中に色々な話をして、Bは

 

あそこ行ったことある?

今度メシ連れてってやるよ

このあとAの家行こうぜ

 

など、島そだちのAに好意的に接してくれた。

 


しかし、

自販機を買いながら「これが、東京だぜ?」

 

鳩を指さして「これが、東京だぜ?」

 

ランチパックを食べながら「これが東京だぜ?」

 

という謎のくだりだけは少しイラっとした。

 


その後、ガイダンスの締めくくりであるキャンパス案内のため、全員が教室を出た。


AとBは機械科に進んでおり、製図室や資料室、実験室など機械科らしい施設を見て回った。

 

 


そして最後に"無響室"の紹介を受けた。

 

 

無響室(むきょうしつ、anechoic room)とは、音の反射をほとんどなくし、室内での音の反響を無視できるほど小さく設計した部屋のことである。無響室は、自由音場の条件を実現するために、壁、天井、床を高い吸音性に仕上げてある。

 

イメージ図

 

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無響室の入り口で止まると、学生スタッフが

 

  • 機械の動作音などのテストが目的である
  • 外部の音を○%カットする


など、無響室の説明資料を読み上げる。

説明後、全員で無響室に入る。


入った瞬間から外部の音が一切聞こえなくなり、寒気を感じたとのことだ。


新入生の前に出てきたスタッフが続ける

 

  • 無響室では音が一切響かない。
  • 部屋を暗くすると、どの位置から音が発生しているか人間は把握できない。
  • 気配を感じなくなるので、1m内に人がいるかわからなくなる。
  • 暗い無響室に閉じ込めると1時間で発狂する


など、人体の構造を利用したちょっとしたホラー話を始めた。

 


隣にいたBは耳打ちで

「嘘くせー」と笑っていた。

 


そしてスタッフは


「試しにどうなるか、部屋を暗くしてみましょう♪」

 


と言って、部屋の電気を消した。

 


その瞬間、一気に無音の闇が包み込み

 

「キャー!!」

「こわーい!」

 

という女子生徒の声が聞こえる。


が、先程の説明通り声は聞こえるが、

いったいどの位置でどのくらいの声で叫んでいるのかがわからない。

 


なるほど、これは面白いとAは感心した。

 

 

その時Bの声がした

 


「ウワーーーーー!!!」

 


「オイ!誰だよ!」

 


「やめろ!!やめろってマジで!」

 


Bは何かに襲われているみたいだ。

 


しかし、部屋も暗く、どこの位置にいるのか全く検討もつかない。


それを聞いた女子生徒も


「何!?今の声!?!?!?」

「どうしたの!?」


と無響室中がパニックになった。

 


どこからか、スタッフの声がする。


「みんな動かないで!電気をつけます!」

 


そして、明かりがついた瞬間、

スタッフの横には何故か全裸で満面の笑みのBが立っていた。

 


Aの隣には脱いだ衣服が散乱していた。

 

 

 

 


Bはその後スタッフにシメられ、ガイダンス終了後に戻って来た。


流石に入学直後から飛ばしすぎだろう、

とAがフォローしようとしたら、

 

 

Bは「これが、東京だぜ?」

 


とほざいていた。

 

 


Aはその日の夜、母親に電話した。